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■ 名優 二木てるみリーディングの世界

◆ 2008年11月27日のNHKラジオ
 女優の二木てるみさんがNHKラジオ『我が人生に乾杯』に登場した。黒澤明作品『赤ひげ』の、あの運命に遊ばれた少女、といえば、そのひたむきな姿を心に浮かべる人は少なくないはずである。この名演技で、二木さんはブルーリボンの助演女優賞を最年少で獲得した。
 『赤ひげ』をテアトル銀座で目にしたのは高校生のときだった。それ以来、ボクはこの可憐で真摯な少女の姿に恋をしていた。ところが、なんたる偶然、なんたる奇跡。数十年後、二木てるみさんもエム ナマエの絵を目にとめてくださったのだ。
 先日のNHKラジオは、ホストの山本監督が、ゲスト以上に時間を食べてしまう薀蓄おじさんだったので、どうも二木てるみという女優ご本人の言葉を満足に拝聴できなかったことが残念でならない。けれども、この名優の、人生へのひたむきな態度の、その切れ端でも全国のリスナーに届いていたらステキなことだと思っている。

◆ ラジオドラマの二木てるみ
 間違えない限り、ボクはテレビドラマを見る人間ではなかった。多忙な時期は、映画館からも距離をおいた。だから、ボクはブルーリボン女優のその後を、あまりよくは知らない。けれども、聞くところでは、二木さんは、家庭の人になっていたらしい。とにかく一途な人柄である。妻としても、母親としても、全力を傾けて走っていたに違いない。
 二木てるみさんとの再会は失明してからだった。TBSラジオの『ラジオ図書館』で、その美しい声による名演技に遭遇したのである。それ以来、彼女への恋心が再燃した。そういうタイミングだったので、ご本人と知り合えたことは何より物幸いだった。

◆ 朗読体験
 失明してから、ボクの文学体験に大きな変化が訪れた。目で文字を追跡するのではなく、耳からの入力によって、その世界を味わうようになったのだ。一度ぜきとも経験していただきたいのだが、同じ作品でも、黙読と朗読では、見えてくる世界に、無視することのできない相違が生じてくる。いや、それは当然だろう。同じ作品でも、それに触れるタイミングや状況が変われば印象も違ってくる。子どものときに読んだ本を、大人になってからは、まるで別の作品のように感じてしまうのが、その典型であろう。
 さて、黙読と朗読に差異が生じるように、朗読者によっても、作品世界が変わってくる。朗読者によっては、名作が名作でなくなることだって起こり得るのだ。嘘ではない。本当だ。体験してみたければ、素人の朗読大会に参加してみるといい。間違いなく、大きな失望を味わえる。
 さて、ボクの幸せは、二木てるみご本人と知り合えたことばかりではなく、その朗読世界に耽溺できるようになったことである。二木さんは、朗読を「リーディング」と称する。それは、彼女の文学作品への女優としてのアプローチでもある。

◆ 数々の舞台
 2003年、青山草月会館での『ドラマチックリーディング』では、舞台せましと動き回りながらの熱演熱読に引き込まれ、それまでに体験したことのない、まるで新しい文学体験をさせてもらった。知っていたはずの作品なのに、いかに多くの読み残し、読み忘れをしていたか、思い知らされたのである。
 2006年、銀座博品館劇場における朗読会『江戸に生きる』でも同様の体験をする。よく知っていたはずの物語が、二木さんの解釈や演技により、まるで別の側面を見せてくれたのである。帰路、新橋駅近くの居酒屋で食したヤキトリの塩辛さもまずさも、その感動を薄めることはなかった。
 2007年のクリスマスタイムは、初台オペラシティーの近江楽堂での二木てるみ朗読パフォーマンスで、大いに笑わせてもらった。いやあ、ユーモラスでユニークなストーリーたち。いったい、どのようにして二木さんはこんな不思議な物語を見つけてくるのだろう。見たことも聞いたこともないクリスマスキャロルの爽快さは、終演後に立ち寄った居酒屋の冷凍焼き鳥や解凍煮込みの味気なさにも打ち勝ち、帰り道を暖かいものにしてくれたのだ。ところで、朗読会と居酒屋には、いかなる関係もありません。ただの偶然です。
 2008年の初夏は代々木上原のムジカータで芥川の『蜘蛛の糸』と宮沢賢治の『注文の多い料理店』を二木さんの朗読で楽しんだ。昨年の不思議なクリスマスストーリーたちとは違って、誰でも知っている作品である。おそらく、そこに彼女の挑戦というか、冒険があったのだろう。さて、終演後はというと、またまた居酒屋にいったと思うでしょう。でも、違うのでーす。声優の山下智子さん、公文出版の内田編集者、作家の古賀悦子夫妻とお洒落な喫茶店に入ったのでした。

◆ 次なるリーディング
 2008年、12月18日の木曜日、午後と夕方の2ステージ、二木てるみのリーディングが四谷の紀尾井小ホールで開催されます。今回は山本周五郎と藤沢周平作品です。どちらも高名な作家ではありますが、特に山本周五郎は黒澤明作品と関係の深い作家。この両者による江戸世界を二木さんがいかに料理するか、楽しみでなりません。ボクは夕方の部を予約してありますが、お時間のある方には、ぜひとも二木さんの朗読世界を体験していただきたいと思います。
お問い合わせとお申し込みは(ファックス対応ではありますが)
『あっちぇる』03−3335−7060です。

2008/12/01


 

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