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■おおたか静流のシュガーランド


◆ ますます飛んでる、おおたか静流
 静流さん、今頃どこを飛んでるんだろ。南の島かな。中央アジアかな。それとも砂漠に雨を降らしてるのかな。
 ボクが知ってる静流さんは、4月23日には下北沢の「レディージェーン」で歌っていました。そしてボクは酔わされました。お酒に。いやいや、とんでもない。もちろん静流さんの歌にですよ。メンバーの音楽にですよ。音という波動がかもし出すアートにですよ。決まってるじゃないですか。

◆ いつも最高だけど、今回がいちばんベストの最高
 静流さんのライブが、いつも最高なのは勿論なのだけれど、今回がいちばんベストで最高のメンバー。いやはや、ボクは原の底の心の奥から酔わされました。
大口純一郎、ピアノ。
太田恵資(オオタケイスケ)、ヴァイオリンとボイスパフォーマンス。
森泰人、コントラバス。
おおたか静流、歌とお笑い。
 すごいメンバーなんですけど、どうも時間に従って動きたくない人もいるらしく、開園時間は遅れに遅れていたみたい。けれども、そのおかげで、やはり遅刻常習者のエム ナマエも、開演に間に合ったのでした。

◆ ウルトラかぶりつき
 エム ナマエのエスコート担当者のおきくさんが、前もって予約を入れていてくださったおかげで、ボクの座席は静流さんの真ん前。ボクの両足の真ん中にマイクスタンドが立っている、という塩梅の、驚くべき真ん前。これこそ特別席。
 ドキドキして待っていたら、やっとメンバーが集まったらしく、静流さんが静々と現れました。拍手。満場の拍手。小さなお店だけれども、超満員の拍手。
 美しい歌が流れてくる。美しいメロディーとともに流れてくる。静かに静かに流れてくる。静流さんの歌声は、ボクの左前方はるかから響いてくる。
 そのとき、うわあ、くすぐったい。ボクの鼻先を何かがくすぐる。あれ。これはスカートではないか。歌声と同調して、スカートの布がボクの鼻先をくすぐっているのです。
 けれども、おかしいぞ。静流さんの声は左前方から聞こえているのに。ここで踊っているのはいったい誰なのだ。まさか狐か狸ではないだろうな。
 そこで頭の悪いエム ナマエは、やっと気がついたのです。マイクスタンドはボクの両足の真ん中。けれど、スピーカーはステージの奥。つまり、静流さんはボクの頭の上で歌っておられるのですが、そのお声は別の場所から流れてきていたのでした。
 やばい。ここで油断の放屁などしたら、静流さんが気絶してしまう。そしたら、今夜の約束の感動も雲散霧消してしまう。ボクは椅子に密着しているその部分、歌声にリラックスしまくっている我が消化器官の開口部に、「緊張せよ」の号令を緊急発信したのでした。

◆ 音楽は細胞膜を溶解し、孤独な遺伝子を融合させる
 太田恵資(けいすけ)さんのヴァイオリンは初めてでした。おきくさんから前評判は聞いていたのですが、これがいい。実にいい。
 どこのどんなヴァイオリンだか知らないけれど、誰でもみんなが知っているヴァイオリンに決まっているのに、どうして三味線に化けたり、胡弓みたいに歌ったり、風になったり、雲として流れたり、静流の水に溶けたりするのだ。おまけにこの人、不思議な声も持っていて、ヴァイオリンを抑えている下顎を動かしてか、動かさずしてか、弾きながら歌うのだ。また、それが国籍不明の旋律と言語で、脳神経がしびれるのだ。 
 おおたか静流と太田恵資。この音楽的融合にはすさまじいパワーがある。頑なな細胞膜を優しく破壊し、意地っ張りの孤独な遺伝子を手懐けて、個人も民族も文化も国境も超越する相互の理解と信頼と尊敬を顕在化させる。そしてボクらは、そこから見えてくる真実に魂を揺さぶられるのだ。うわあ、かっこいい。

◆ スウェーデンから森の番人が飛んできた
 バタン。ドアが開いた。休憩時間、突然満員の店内に巨大な影が乱入した。背中に大きな荷物を携えて。
 そして、その大きな人は存在感そのままにボクへ歩み寄り、そのグローブみたいな大きな手でボクの手を握ったのだ。
「やあ、ホームページ、読みましたよ」
 うわあ、森さんだ。北の果てのオーロラの国で活躍する、生粋の日本男子の国際的なジャズマンだ。スウェーデンから飛んできて、この音楽の場に間に合ったのだ。
 森さんとはこれで三度お目にかかる。あれ、ボクがいうと変かなあ。では、お耳にかかる。でも、やっぱりこれも変。誰にも通じるように、普通に表現するのがいちばんなのだ。で、話を戻しますと、ボクは森さんとこれで三度お目にかかっているのだ。静流さんのライブとなると、いきなりスウェーデンから飛んでくるのです。鳥でもないのに、飛んでくるのだ。そして、不思議なことに、時差ぼけした森さんを見たことがありません。いつでもすぐに力強い弦の響きを伝えてくれるのだ。

◆ みんなが聞いてる秘密の打ち合わせ
 で、その通り、すぐに荷物を開く音がして、ひそひそ声の打ち合わせが始まったのです。けれど、ボクはウルトラかぶりつきだから、みんな聞こえてしまうのだ。いや、小さな店内だから、誰にでも聞こえているのだ。いや、これもパフォーマンス。聞かせているのかもしれないのだ。
 これぞ公開業務連絡。カーテンなき秘密の会話。メビウスの輪みたいな螺旋のエンターテイメント。
 事前の打ち合わせや練習なんかしないのだ。リハーサルもやらないのだ。いや、風や雲や鳥や月を相手に、どんなときでも誰とでも、音楽できるよう、エニータイム精進してるから、大丈夫なのだ。いつでもプラクティス繰り返しているのだから、いきなり本番でやらかすのだ。
 森さんからオーロラの風邪が吹いてくる。森の空気が流れてくる。森さんは心も身体も大きなひと。まるで熊みたいに大きな人。そうだ。森さんはスウェーデンからやってきた森の番人、森の人。インドネシアの言葉でいったら、そう、オラン・ウータン。スウェーデンとインドネシアはまるで関係ないけどさ。いってみただけ。くだらない。
 とにかく、みんなは森さんのことを森の熊さんといってるらしい節がある。ご本人が知っているのかどうかは別にして。
 あ、もしもスウェーデンでご本人がこれを読んだら、気を悪くするかなあ。やっぱり、しないだろうなあ。そういう人だったら、ボクがこんな文章を書くはずがありませんものね。

◆ 素敵なアルバムが出来上がる
 このライブを最後に、しばらく静流さんは東京で歌わない。まずは中央アジアで開かれる音楽祭に参加する。明日には、カザフスタンへ飛ぶという。国際アーティスト、おおたか静流が翼を広げるのだ。
 森さんも翌日にはスウェーデンに帰国して、それから改めてカザフスタンに飛ぶという。そこで静流さんと、作曲家でギタリストの加藤みちあき氏と合流し、カザフスタンやスウィスの音楽家たちと、音の波動の核融合を反応させるのだ。
 そして帰国すれば全国行脚。新しいアルバムができるのだ。そのための広報活動だと彼女は笑う。けれど、真面目にやってくれるだろうか。なにしろ、素人のエムナマエなんかとも歌ってしまう不思議な静流さんだから、またもや聴衆を仰天させ、驚天動地のコンサートをやらかすかもしれないのです。期待を裏切らず、予測を裏切る静流さん。感動をそのままに、新しい音楽体験を授ける静流さん。その彼女がリリースする新しいアルバムに期待しないわけがないじゃありませんか。

◆ 「シュガーランド」からの便り
 遠い南の島で静流さんはこのアルバムを制作した。このメンバーで音を入れた。音楽スタジオも存在しない、ゆるやかに時間の流れる海の果てで、静流さんは歌うのだ。潮風が流れる島の食堂。窓の外では小鳥のコーラス。天井ではヤモリも歌う。
 4月23日の夜、下北沢のレディージェーンで、その、まだ誰も聴いたことのない音楽をメンバーは演奏してくれたのです。
「この歌を初めて人前で歌います。これまではヤモリしか聴いてません」
 そして静流さんとメンバーは、この楽曲を披露してくれたのでした。
 で、この曲がいかに美しいか、この言葉がいかに悩ましげか、それはCDを買っていただくしかないでしょう。詳細はおおたか静流さんのサイトをご覧ください。

◆ シュガーランドで会いましょう
 では、これからの合言葉は
「シュガーランドで会いましょう」

◆ けやきホールで会いましょう
 さて、5月25日、全国行脚の途中で、静流さんは東京に戻り、ラジオのイベントにエム ナマエと出演いたします。
 5月25日(木)に、古賀音楽博物館けやきホールでNHKラジオ深夜便の公開録音「にっぽんの歌こころの歌のつどい」が開催されるのです。
 おおたか静流さんのライブにエム ナマエのトークゲスト、聞き手が深夜便の人気アンカー、須磨佳津江さん。
 静流さんのライブには二胡の程農化さん、ピアノの黒田京子さん、という強力サポートミュージシャンがきまっています。
 もしも参加ご希望の方がいらっしゃいましたら、インターネットでNHKの「ラジオ深夜便」を検索していただくか、放送を聴いて申し込んでください。入場は無料だと思いますが、入場券は抽選だと思います。
2006.05.02

 

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