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☆☆☆ 2004年10月10日 アリーナ永眠 ☆☆☆ − 盲導犬アリーナが星になりました −

◆ 10月10日の日曜日午前零時、アリーナは妻のコボちゃんに抱かれ、眠るように息を引き取りました。14歳と9ヶ月。昨年5月末日に盲導犬を卒業してから、1年と4ヵ月後の大往生でした。
 児童文学者さとうまきこ夫妻、中日ドラゴンズ落合監督夫人信子氏、長男福嗣君、アリーナを訓練した神田豊茂夫妻とアリーナ二世、NHK青木裕子アナウンサー、カメラマン青木岳志ご家族、ジャーナリスト下村健一ご家族。友人知人が次々に弔問してくださいました。おかげさまでアリーナの身体は花々に囲まれ、その顔はただ眠っているかのごとく安らかだったそうです。
 アリーナはエム ナマエ家族の一員でした。妻のコボちゃんにとっては大切な娘でした。ボク、エム ナマエにとっては体の一部でした。猫のキロンにとっては本当の姉でした。猫のナンナンにとっては命の恩人でした。ご近所の人たちも、のら猫たちも、ベランダで遊ぶ小鳥たちもみんなアリーナが大好きでした。そしてボクらは決してアリーナを忘れません。
 全国の皆様方に盲導犬アリーナの働く姿を見ていただきました。全国の子どもたちがアリーナの本を読んでくれました。全米の赤ちゃんたちがアリーナのヌイグルミを抱いて眠りました。いつもボクらと一緒にいてくれたアリーナ。いつもボクの足元で丸くなっていたアリーナ。ひた向きに仕事をしていたアリーナ。頑固でお茶目だったアリーナ。ボクはもう一度アリーナとの楽しい暮らしを振り返り、たまっているメモをひっくり返し、盲導犬としての、家族としてのアリーナを書き記し、絶版状態になっている「盲導犬アリーナ物語」を復活させようと思っています。それがボクとコボちゃんに素晴らしい思い出を残してくれたアリーナへのせめてもの恩返しなのです。
 どうぞ皆様、人間にはとても真似のできない愛と忍耐と貢献を見せてくれたアリーナへ祈りを送ってやってください。
*エム ナマエ 2004年10月10日

◆ 
アリーナの祈りエム ナマエ

アリーナの写真アタシはアリーナ、盲導犬。
11歳になるラブラドールレトリバーのギャル。といっても、人間にすると60歳のオバサンということになるらしいんだけど、アタシは元気。今度、エムさんがアタシをモデルに絵本を作ったんだけど、物語ではアタシは可愛いい女の子じゃなくて、妙なキャラクターのオジサンになってるの。 そこのところが不満だけど、まあ許してあげることにするわ。だって、エムさんとは長い付き合いだもの。  そうね、世間的にはエムさんが主人ってことになってるの。つまりユーザーってわけ。エムさんは偉そうに、アタシを連れて外を歩く、なんていってるけど、ふふん、笑わせるわね。だって、連れて歩いてるのは盲導犬のアタシなんですもの。
 でもね、いいとこあるのよ、エムさん。どうしてもアタシと一緒に家へ帰りたいって、とっても頑張ったんだから。目が見えないだけじゃなくて、重い病人の彼にとっては、盲導犬の共同訓練は大変だったのね。普通だったら30日から40日くらいで終る訓練なのに、エムさんは90日もかかったのよ。苦しくて、あきらめようと思ったこともあるんじゃないかしら。訓練所の所長さんや訓練士さんも、とっても心配して、わからないようにそっと見守り、聞こえない声で応援してくださったの。だから、こうしてアタシとエムさんが一緒に暮らせるのも、すべて盲導犬協会のみなさんのおかげなんだわ。
 アタシが犬として生まれてからしばらくして、パピーウォーカーという人間の家族に育てられたの。アリーナという名前も、そのときもらったんだわ。そして人間という生き物のことや、家庭とか町のことなんかがわかった頃、盲導犬訓練学校に入学したのね。パピーウォーカーの家族と別れるときは、そりゃあつらかったわ。もう忘れてしまったけど、アタシ、ずいぶん泣いたんじゃないかしら。でもね、訓練士のお兄さんの優しさと愛情が、そんな悲しみから救ってくれた。訓練は長くて難しかったけど、つらくはなかったの。訓練士のお兄さんはアタシがわかるまで、できるまで、辛抱強く何回も何回も教えてくれたのよ。できると褒めてくれたけど、できなくても怒られることなんてなかった。そうして長いことかかってアタシは立派な盲導犬として訓練所を卒業したんだわ。
 エムさんに会ったのはそれからよ。この人が本当のご主人になるんだってわかるまで、少し時間が必要だったけど。そして共同訓練。エムさんは盲導犬のユーザーとして、トレイナーとしての練習と勉強。アタシはエムさんのパートナーとしての修業。あれから8年。今や、ふたりは一心同体。お互いがお互いの一部。つまり、アタシが第一夫人ってわけ。コボちゃんは本当の奥さんだけれど、でも第二夫人なのよ。
 さて、これからが本題。みんな、アタシがエムさんと暮らせるまで、どれくらいのお金がかかったか想像してみて。大変な金額なのよ。高級車が買えちゃうくらい。でもね、エムさんはアタシを買ったわけじゃないの。盲導犬協会から借りてるだけなの。それも無償で永久によ。じゃ、そのお金はどうしてるかっていうと、ほとんど寄付なのね、これが。市民のみなさんの理解と貢献がアタシたちにこんな幸せをくれたんだわ。アタシ、生意気いうけど、いいかしら。税金じゃなくて寄付ってとこが重要なんだと思う。つまり、誰が本当のお金の使い方を知ってるかって問題ね。それから、もうひとつ。福祉社会は市民が自主的に作るってこと。みんなの未来をみんなで開くってこと。寄付のおかげで盲導

犬がふえるってことは、いい社会ができつつある証明だと思うの。お金は大切だけど、正しく使わなければ光らない。福祉のシンボルとしてのアタシ、盲導犬の活躍が新しい千年を輝かせ、この本の売り上げが少しでも福祉社会の実現へのお役に立つよう、アタシはお祈りしているの。

※ 絵本「世界でいちばん長い夜」(自由国民社)あとがきより

この絵本の売り上げの一部は全国の七つの盲導犬教会で盲導犬育成に使用されます。


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