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■ ザ・ビートルズから40年

◆ 来日40周年記念日
 本日、2006年06月29日はザ・ビートルズ来日40周年記念日である、と深夜ラジオが語っていた。そうだったろうか。確かあの日、台風がやってきて、一行の日航機が遅れ、翌日の深夜に到着したように記憶している。だから来日は30日じゃなかったかな。いやいや、自信はない。最近、あれほど自負していた己の記憶力にも陰りがさしていて、人様に強いことがいえなくなった。それに、真実はインターネットでいくらでも知ることができる。

◆ わくわくの秘密
 半纏をはおり、日航機のタラップから降りるザ・ビートルズ。テレビからの映像にわくわくする17歳の自分。ザ・ビートルズの初来日である。わくわくしないはずがない。ただ、ここで強調したいのは、ただ漠然ととわくわくしているのではなく、このわくわくがチケットを保有している故の胸のときめきであることだ。

◆ ザ・ビートルズ東京公演のプラチナチケット
 このチケットがいかに貴重なものだったかを今更書く必要もないだろう。プラチナチケット。いや、ダイアモンドチケットといっても大げさではない。そして、一介のヒラリーマンの息子でしかなく、業界になんらコネクションのない高校生が、何故このウルトラ貴重なチケットを入手できたかには秘密があった。
 チケットは抽選によって販売された。往復葉書にて応募する。ただし、ひとり一枚限り。そこでボクはクラス全員の名前を拝借したのである。見事当選。この貴重なチャンスをゲット。人生最高の時間を買い取る権利を取得したのである。
 このプラチナチケットを獲得するに、もうひとつ奥の手が用意されていた。それはライオン歯磨きの空き箱による抽選。弟は歯磨き数年分の空き箱を送り、幸運にも一枚のチケットを当てたのである。

◆ 本物のザ・ビートルズ
 武道館の歴史に輝く最初のロックコンサート。ザ・ビートルズ東京公演。この様子はボクのような稚拙な筆に任せるにはしのびない。これに関する資料や記録はいくらでもあるので、やはり省略する。
 大切なのは、このボクの肉眼が彼らを目撃したことである。映画でもテレビでもなく、雑誌でも写真でもない。実物とボクの間には透明な空気しか存在しなかった。
 武道館のアリーナは警備の警察官に占領されている。気の毒に。彼らはステージに背を向け、我々ビートルズマニアを監視するだけ。嘘。そんなはず、ないじゃん。彼らの目は後ろになくても、耳は背中を向いていて、特等席で聴いていたに決まっている。それも無料。いや、勤務外手当てつきで。
 ボクの座席は2階の前列。彼らとの距離は遠くない。ボックス製アンプからの音が届く。ジョンの汗が流れる。ポールのバイオリンベースが踊る。ジョージのはにかみ笑顔が迫る。リンゴが頭を振っている。みんな本物、目の前なのだ。

◆ あっという間のコンサート
 本番はあっという間だった。前座に様々な歌手やグループが登場して、時間は稼いだが、ザ・ビートルズの体験は瞬間に思えた。それも未来に無限の波紋を送る、永遠の瞬間である。
 武道館から吐き出され、いや、掃き出されたボクは、胸の鼓動を抑えながら、ひとり靖国通りを歩いていた。向かう歯市谷。ボクの本籍のある土地だ。
 世界文化社。当時、ボクはそこでアルバイトをしていた。休みになると、刷り上った本や雑誌の配送を手伝うのである。自然、足は市谷の土手を目指し、気がつくと世界文化社の前に立っていた。
 ここに知っている人たちが働いている。今、まさに自分が抱いている感動を誰かとシェアしたい。誰かに伝えたい。ただ、そう思いながら、ボクは土手の上に独り立っていた。
 未来、夢が実現してイラストレーターになること、旅の自分がリバプールの街に立つこと、ジョン・レノンが凶弾に倒れること、そのニューヨークで失明した自分の個展を開くこと、ジョン・レノンと並列で自分のコレクションが全米で展開されること、ジョン・レノン公式追悼コンサートに参加させてもらうこと、そこでジョージ・ハリソンの魂を見送ること。土手の上の自分には、そんな未来が見えるはずもない。ただ、運命の時計だけが歯車を前進させていたのだった。

◆ 世界文化社の絵本を考えながら
 偶然にも、朝からひとつの原稿を書いている。世界文化社から以来されている絵本の原案である。
 ボクは世界文化社という出版社でアルバイトをすることによって絵本の世界に目覚めた。単なる漫画家への憧れが、具体的な絵本作家という目標を定めたのである。
 人生は時間。長くて短い時の流れであり、今という瞬間の連なりだ。その連続が一枚の美しい布を織っている。命が途絶えるとき、布も完成する。たとえ、その布がどのようであれ、布は一丁あがりとなるのだ。
 人生の初期、ザ・ビートルズに出会った。その出会いが小さくない方向転換をボクに与えた。その波紋が、その軌跡がボクの背中を押している。40年前のある日、ボクは市谷の土手に立っていた。そして、その瞬間の自分を、今のボクが抱きしめている。   29/06/2006

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