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■ ボクはウサギのバリーです 2005/10/22

◆ 『絵門ゆう子さんを囲む会』
 セリフも覚えた。白いトレーナーと新しいブルージーン。これで長い耳を装着すれば、ボクはウサギのバリーに変身する。そう、今日、2005年10月22日はこれから朗読コンサート。そして、今夜はボクも出演するのだ。
 NHKの青木裕子アナウンサーが迎えにきてくれる。ボクらはタクシーで明大前のキッドアイラック・ホールに向かった。
 メンバーが揃ったところでリハーサル。ボーボーと木管楽器も鳴っている。これで準備は万全。
 NHKのアナウンサーを中心にした『読夢の会』というグループがある。最近ラジオが注目されている。そして、その中で大きな役目を果たしているのが朗読やラジオドラマであろう。まあ、これはエム ナマエの個人的意見ではあるが。それにしても、想像力を喚起させる言葉の連なりは「自分だけの映画」を見せてくれる。ボクは失明以前からラジオマニアであった。そして失明してからはますますラジオ、それも朗読の世界に没入していった。「ラジオ深夜便」や「ラジオ文芸館」では優れた朗読やラジオドラマが魅惑の時空間へ誘ってくれる。最近ではTBSラジオの「ラジオブックス」もいい。
 世間でも朗読に興味が集まっているらしい。その証に明大前のキッドアイラック・ホールをステージにして続いている『読夢の会』も人気を集めてきた。
 『読夢の会』の人気の秘密は、その会の中心メンバーがNHK「ラジオ文芸館」のアナウンサーで構成されていることにある。朗読を愛する者として大きな声でいわせてもらうが、これ以上贅沢な人選はないだろう。そこに女優の二木てるみさんもメンバーに参加した。もう、マニアにとってはたまらない。
 ボクはこの会で初めて絵門ゆう子さんと出会った。彼女はもともとはNHKのアナウンサーであり、青木裕子さんの後輩にも当る人である。おそらく元NHKの池田ゆう子アナウンサーといえば思い当たる人も少なくないだろう。その彼女が先輩の青木アナウンサーの朗読に魅かれてやってきたのだ。衝撃的な出会いだった。自分は全身に癌が転移している。絵門さんはボクにそう語ったのである。
 けれども見えないボクの目に見える彼女は美しく清涼で、陰りの一片も感じられなかった。
「癌でも貴方は死なないと思う」
 ボクは無責任にも感じたままを伝えた。その瞬間からボクの中で何かが回り始めたのだ。
 青木アナウンサーと絵門さんがボクの仕事場を訪れた。これから絵門さんは朗読の会を開くという。そして、彼女はその場でボクの作品『ナクーラ伝説の森』を選んでくれたのだ。初見で絵門さんは『ナクーラ伝説の森』をはっきりとした音声で見事に朗読してくれた。その情感豊かな語りに、ボクが感動したのはいうまでもない。それからの絵門ゆう子さんの活躍は皆さんご存知の通りである。幸運にもボクは絵門さんとの仕事を許されてきた。そして来年もエッセイ絵本という楽しいコラボレーションが準備されている。
 『絵門ゆう子さんを囲む会』が計画された。絵門さんの存在は人々に様々な勇気と希望を与えている。そして、その原点、キッドアイラック・ホールで絵門ゆう子作の絵本『うさぎのユック』を特別バージョンの朗読コンサートで披露しようというお楽しみなのだ。
 いよいよ本番。会場は満員だ。ボクは特別製のウサギの耳を頭に装着した。けれども耳がぐらぐら落ち着かない。はげているわけでも、髪の毛が少ないわけでもない。いや、どちらかといえば薄毛ではあるが、ボクは頭が小さいのだ。と言い訳をしながら愛用のハンティングをかぶり、その上から耳を装着した。これで具合がいい。けれどもハンティング帽子とサングラスでは、まるでウサギのギャングみたい。
 物語りの語り手はもちろん絵門ゆう子さん。主人公のユックに青木裕子アナウンサー。妹ウサギに元NHKアナウンサーの栗太敦子さん、古藤田京子さん。弟ウサギに元TBSアナウンサーでジャーナリストの下村健一氏。それに末っ子ウサギのバリーがエム ナマエである。ボク以外はみんなプロの語り手。ボクだけが素人なのだ。おまけにみんな絵本を手にしての朗読。ボクはセリフを覚えての出演。救いは出番の少ないことだけ。でも、その出番のタイミングが難しい。そこで隣に座っている下村健一氏がポンとボクの膝を打って合図のキューをくれた。これで大丈夫。木管楽器のナマ演奏が盛り上げてくれる中、緊張することもなく朗読は終了した。拍手。どうやら楽しい舞台になったみたいだ。
 それからは絵門さんを囲んでのリラックスしたバーティーとなった。素敵なお客様のスピーチが続く。落語家の柳家一琴師匠が飛び入りで、紙切りによる似顔絵を披露。これには満場爆笑。絵門さんの発するオーラを浴びながら、楽しい夜がふけていった。
 会費とパーティー参加費用に余剰金が生じた。もしかしたら、皆さん遠慮してあまり飲み食いされなかったのかもしれない。というわけなので、次の処へ寄付させていただいた。
 日本点字図書館、NPO法人「乳房健康研究会」、「無言館」。NPO法人乳房健康研究会とは、絵門ゆうこさんの活動を支えたり、ピンクリボンキャンペーンでこの頃おなじみになっている会である。
執筆  2005/11/30


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