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■ 世界的バイオリニスト 川畠成道ご夫妻 エム ナマエ仕事場をご訪問

◆ ネズミ小屋でも たまにはスゴイ人物 やってくる
 ネズミーランドは世界でいちばん来客の多いテーマパークだそうであるが、エム ナマエのネズミ小屋にもお客さんはやってくる。ここを仕事部屋としてから既に15年が経過した。そして、いろいろな人がやってきた。読売巨人軍四番バッター当時の落合選手。皇室御用達宝石商の番頭さん。いや、思い出せば、あの人もこの人も、である。で、ここ最近でいちばん感動したのが川畠成道ご夫妻の訪問であった。

◆ 川畠成道さんのこと
 今年の頭、毎日新聞の川俣享子記者から以下のようなメールをいただいた。

 ところで、バイオリニストの川畠成道(かわばた・なりみち)さんをご存じですか。8歳の時、薬の副作用で視覚障害を負い、その後バイオリンを習い、英国王立音楽院を首席卒業。98年に日本フィルとの共演による国内デビューを果たし、チャールズ皇太子にも招かれ演奏している国際的なソリストです。「徹子の部屋」にも、2回出演しています。とても実直な青年(36歳)で、記事を何度か書いています。

そうしたご縁で、彼のチャリティーコンサートを毎日新聞が、後援することになりました。竹下景子さんが司会します。3月ですが、奥様とご一緒にいらっしゃいませんか。
 川畠さんには昨年8月、横浜で開いた小児がんの子どもたちと家族の集いで演奏していただき、大反響でした。「命をとりとめたものの障害を負ってからの人生はバイオリンが一番の友達だった。あれから25年、毎日毎日練習し続けています」と、淡々と語る様子も胸を打ちました。出演直後に一緒に写真に収まりたいと、子どもたちが殺到してしまったのですが、笑顔で応じていただけました。親御さんから、私の元には
「希望と勇気をいただきました」
というお手紙が届いたほどです。
 昨年のクリスマスに川畠さんとお会いした時、お手紙をご紹介したところ、とても喜んでいただき、3月29日のコンサートには、何と100人もの病と闘った子どもたちをご招待いただけることになりました。
川畠さんが5月10日に開くコンサートでは、収益の一部を小児がん征圧募金にいただく予定です。


 当サイトの2008年5月2日の記事、『ぶらりコンサートにいってきました』で、ほんの少し触れたが、川俣記者のご縁で、3月29日(土)午後2時開演、東京オペラシティ(初台)の川畠成道さんのコンサートにいってきた。

◆ 小さな楽器の巨大な波動
 ガダニーニという名器だそうである。ストラディバリのお弟子さんらしいが、その人が18世紀に製作してから鳴り続けてきたバイオリンだ。膠で接着した木片にニスを塗っただけの楽器。特殊合金もプラスティックもハイテクも使用されてはいない。けれども、その小さな楽器から広がる波動がオペラシティーのコンサートホールを満たしていく。
 川畠さんのことはずっと以前から注目していた。運命は過酷である。けれども、過酷であるが故、運命を受容した当事者には福音がもたらされる。そして、ボクが予想していた通り、川畠さんのバイオリンには天上界からの響きがあった。楽器の特性を活用した演奏法であるのか、それとも川畠さんの個性であるのか、彼の奏でる旋律は心の奥底まで染み透ってくる。
 アマデウスは天上界からの旋律に耳を傾けて作曲をしていた。そんなことを聞いたような気がするが、この夜のボクは、それをまるごと納得していた。
 これまでも優れたバイオリンソロをずいぶん聴いてきた。和波さん、天満さん。どれも心を揺さぶる演奏である。けれども、川畠さんのバイオリンの奏でる透明な高音域の旋律はボクの心を揺さぶった。
 いや、アートはどれも感動なのだ。絵も音楽も、人から生まれるもの。人が関わるもの。それらはすべて一期一会。送り手と受け手。表現者と鑑賞者。人生というエーテルに浮かんだ魂たちとが触れ合う瞬間なのである。

◆ 川俣さんの作るご縁
 さて、川畠成道さんが結婚された。川俣さんとのご縁で、その記念作品を制作することになった。まあ、おめでたい記念なので、エム ナマエなりの工夫がこらしてあるが、それは内緒である。
 ところが大変。川畠成道さんご夫妻が、直接その作品を受け取りにこられるというのだ。結びの神の川俣さんも同席なさるという。どうしようかとあせっているうちに、とうとうその日がやってきた。
 まずは緊張して握手。あの華麗でスピリチュアルな旋律を奏でる指たちと接触するのである。ボクはできるだけ柔らかく手を握った。けれども、会話が進むうちに、気分は楽しくなってくる。その最大のきっかけは、奥様の知子さんがボクの絵を気に入ってくださったことにある。
 ステージでもそうだったが、川畠さんは楽しい語り手でもある。例えばフルートの第一人者、大嶋義実さんも、演奏だけでなく、その合間のおしゃべりで聴衆を魅了してしまう。クラシックというと、ちょいとばかり縁遠い印象があるが、演奏者のユーモアやウイットがその距離を縮めてくれる。

◆ 階段の手すりに問題あり
 会話が進むうちに、話題は視覚障害者として共通の興味や問題に波及していく。川畠さんもよく電車を利用されるらしい。最近、脚力に自身の出てきたボクも、同じく電車を利用する毎日である。そこで気になるのが駅の階段の手すり。これらの設計が実にお粗末。デザイン重視、もしくは予算重視だから、使用者の立場から出来てはいない。特に障害者や高齢者当事者の意見はまるで取り入れられてはいない。施工者は一度アイマスクをするか、足に1キロのウェイトを装着して、あの手すりにつかまって階段を降りてみるべきである。そう。階段もエスカレーターも、降りるときが怖いのだ。そのあたりも、想像力の乏しい施工者たちには理解できないらしい。
 手指が命の人間にとって、お粗末な設計やデザインの満ちている社会環境で怪我をすることくらい、バカらしいことはない。ボクは真夏でも皮手袋を使いたい誘惑にかられる。自分の指を守るのは自分の責任。怪我をしたら、ボクらは仕事を失うのだ。
 夢中でおしゃべりしているうちに、あっという間に時が過ぎる。いけない。あのファンタスティックな演奏の土台となっている川畠さんの貴重な練習の時間を、これ以上邪魔してはならない。
 もっと一緒にいたい気持ちを抑えに抑えて、お別れの挨拶をする。結婚記念作品は、それなりの大きさがあった。けれども、川畠さんは、それを抱えて電車でお帰りになるという。ええっ。あの大切なお手手で、エム ナマエなんかの絵を持ってくださる、というのか。ボクは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

◆ TBSラジオから川畠成道コンサートのお知らせ
 11月16日のサントリーホール、川畠成道さんのコンサートが開かれる。チケット発売は5月31日から。
 そんなアナウンスがボクの耳に飛び込んだ。うほほい。いや、実をいうと、ボクは既にチケットを予約してあるのだ。あのクラシックの殿堂、サントリーホールで川畠さんのガダニーニをまたまた体験できる。そう考えただけで、今からわくわくの毎日である。彼とのご縁を作ってくれた毎日新聞の川俣享子記者に改めて感謝するのであった。2008/05/18


 

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