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■ 習慣的喫煙からの離脱

◆ あれから1年が過ぎました
 皆様にご報告いたします。実はエム ナマエ、煙草をやめています。正確に表現するならば、1年間、習慣的喫煙から離脱しています。つまり、あれほどヘビースモーカー、もしくはチェーンスモーカーだったボクの手から煙草が離れたのです。
 昨年の6月20日、ボクは東京女子医大のフットケア外来、新城孝道先生の診察を受けました。先生はフットケアでは世界的な臨床医師として知られている名医です。
 新城先生の評判は糖尿病患者のための専門月刊誌「さかえ」の田辺靖始記者や、福岡の南昌江内科クリニックの南昌江先生から聞いてはいました。けれども実際にお会いするのはそれが初めてです。
 自分の足はまだ大丈夫。ずっとそう信じてきました。血糖値もコレステロールも問題ない。勝手に自己診察してきました。けれどもそういっていられなくなったのです。

◆ ずいぶん待たされはしたものの
 予約してからずいぶん待たされました。きっと混雑しているのだろう。けれども、お訪ねしてビックリ。その午後、患者はボクひとりだけではありませんか。そればかりでなく、採血も先生が自らしてくださるのです。ボクはたっぷりと時間をかけて診察を受けることができました。
 先生とその午後を過ごして分かったことがあります。それは、先生が患者と一緒にいてくださる人だということです。先生は病状を診るときも、データを見るときも、患者と同じ方角を向いて、並んで座っていてくださるのです。
 新城孝道先生に出会うことによって、ボクは救われました。閉塞性動脈硬化症で風前の灯だった両足を切断から免れたのです。
「北海道にいけますか」
 先生によれば、北海道にボクの両足を救える名医が存在するとのこと。そしてボクと家内のコボちゃんは、すべてを忘れて北海道に飛ぶことを決意するのです。

◆ 定量分析
「貴方は煙草をやりますか」
「はい」
「煙草は血管にダメージを与えます。それに細胞にもよくありません。貴方の血液は一酸化炭素に汚染されていますよ」
 ボクは血中の一酸化炭素濃度の数値を知っておののきました。煙草が毒であることは知っての喫煙でしたが、具体的な数字を示されたのはこれが最初の経験です。医学とは科学。科学とは定量分析。事実と状況がデータとして明らかにされてしまうのです。

◆ 減煙から禁煙へ
 ボクは減煙から挑戦しました。まず、新しい煙草のパッケージを買わないことを決意します。そうすると、手元に残っているシガレットの数が見えてきます。さあ、ボクはこれから何本吸えるのか。そして、それらのシガレットがゼロになる日をイメージします。もう、その日から煙草は吸えません。おお、そうなると一本一本のシガレットの、なんたる貴重なことよ。
 蛇口から流れ出る水のごとく消費していたシガレットの数々。それらが銃声に驚き飛び立つ水鳥の集団のように思えてきます。さようなら、たなびく紫煙。さようなら、羽のはえた巻きタバコたち。さようなら、無数の吸い殻、灰の山。
 けれども、煙草吸いの、なんたるみみっちい根性か。手元に一本もなくなると、無意識に煙草を捜している自分と出会うのです。そして引き出しの奥から、いつの物かも分からない古いパッケージを発見して、その中に忘れられていたカラカラに乾燥したシガレットを取り出して点火するのです。
「わあ、まずい」
 全身に鳥肌の立つ匂い。これが長年愛した煙草の実態なのでしょうか。
「ああ、もうやめよう」
 そう思います。と、ここまでは今迄何度も経験したこと。そして、ここからが分かれ目となります。この
「もう、やめよう」
が真実になるためには、二度と煙草に手を出さないことなのです。煙草が欲しいと暴れないことなのです。

◆ ニコチンパッド
 ニコチンパッドという医薬品があります。ニコチンのシールを体に貼り付けて血中のニコチン濃度を上昇させ、喫煙によるニコチン吸収を抑制させようという筋書きです。ボクも購入しました。けれども、安くはありません。それに健康保険対象外でもありました。
 ニコチンパッドを体に装着してから、ボクはコボちゃんに説明書を読んでもらいました。すると、このシールにはニコチンが65ミリ含有されているとか。おいおい、待てよ。ボクが愛用していた煙草は一本1ミリのニコチン含有。ワンパッケージでも20ミリ。となると、シガレット65本分のニコチンではありませんか。こんなシールをはっていたら、ニコチン中毒で死ぬかもしれない。ボクはすぐにニコチンパッドを放棄しました。うわあ、大損、勿体無い。

◆ 習慣的喫煙からの離脱
 こうしてボクは習慣的喫煙から離脱できました。でも、当たり前。それほど状況は切迫していたのです。そして、いかにヤバかったかはこのホームページの「北海道からの手紙」を読んでみてください。
 北海道は旭川医大付属病院の笹嶋唯博教授による執刀。それは初めて体験する大手術でした。教授のメスにより、ボクの両脚は救われました。そして、禁煙は全身麻酔によるリスクからボクを守ってくれたのです。

◆ それでも煙草はうまいのだ
 煙草がおいしいことはよく知っています。自分の全身に染み付いています。おそらく、ボクにとってそれは生涯変わることのない味覚であり嗜好であり続けることでしょう。
「一本ください」
 退院したとき、ボクは知人からもらい煙草をしました。そして、3ヶ月ぶりに吸う煙草のうまかったこと。紫煙をくゆらす至福の安らぎ。これが喫煙の醍醐味なのです。そのわずかな時間だけ、すべての束縛から解放され、ささやかな酩酊に遊ぶのです。
 元気になってからは一日一本のシガレットを隠れて吸っていました。楽しみに吸っていました。絶対にできないと思い込んでいた煙草を吸わない我慢が、できるようになったのです。我慢と思わないで我慢できるようになったのです。だから一日一本の喫煙は喫煙でない。そういう理屈でした。
 けれども、とうとうコボちゃんに発見されてしまいました。透析から帰宅したら、ボクの部屋が煙草臭いのです。たまらなく嫌な匂いなのです。隠しておいた吸い殻が床一面にぶちまけてありました。
 黙って掃除機を回します。長期入院をサポートしてくれた家内の怒りが伝わってきました。トイレで隠れての喫煙がばれた中学生や高校生の気分です。
 それから内緒の煙草はやめました。吸い殻を隠匿する苦労からも開放されました。ボクの部屋から煙草臭さも消え去りました。

◆ 禁煙は難しくありません
 禁煙は簡単です。めっちゃくちゃ、簡単です。誰だって、生きている限り、何回だって可能です。禁煙80回とか、禁煙150回とか、さまざまな記録樹立者がおられることでしょう。
 ボクはこれが三度目の禁煙となっています。そして、現時点では三度目の正直となっていますが、さあ、この先どうなることでしょう。
 まだ、あまり偉そうなことはいえません。けれど、分かったことが少しありますので、最後にそれを書かせてもらいます。

◆ ニコチン中毒の真相
 ニコチン中毒は伝説ではないか。これまでボクはそう感じていました。けれども、どうやら本当のことらしいのです。
 ニコチンには脳細胞を連絡する脳内物質を助ける機能があるとか。ですから煙草を吸うと頭脳の回転がよくなったような錯覚に陥るのです。ところが、いつも煙草に助けてもらっているうちに、本来の脳内物質がさぼるようになり、ニコチンに頼り切ってしまう。それをニコチン中毒と呼ぶらしいのです。
 けれども、ボクは具体的なニコチン中毒の自覚症状がありません。家内のコボちゃんは
「そんなことはない。煙草がなくなると、すごくイライラしていた」
と証言します。けれども、ボクはそれを彼女の思い込みと理解しています。
 イライラするのはニコチンが切れたからではありません。手や口がさびしいだけなのです。習慣になった行為ができないため、物足りなく感じているだけなのです。

◆ 深呼吸
 どうしても煙草が欲しくなると、ボクは深呼吸をして気分転換を試みます。この方法で今はうまくいっています。問題はありません。
 煙草を吸わないと、他人の吸う煙が気になると聞かされていました。それに、間接喫煙はとても不愉快だとも聞いていました。けれども、ボクの場合、そんなことはありません。煙草を吸うだけで、その人を非人間扱いする方がよほど不愉快に感じます。
 以前、やたらと人から禁煙を勧められました。そして禁煙に成功した人ほどそれをする傾向にあります。ボクは人に禁煙は勧めません。だからさ、そこの煙草を吸っている貴方、ちょいとボクにも一本くださいませんか。
24/06/2006



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