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■ エゴロジー

◆ 環境サミットでみんなエコ
 ラジオもテレビもどれもエコ。環境サミットでエコエコしてる。けれども、エコロジーばかりエコひいきしてないで、しっかりと目を見開いてもらいたい。
 とかいってるこのボクも過去の猫の目日記で、休ませている水田に目覚めてもらい、どんどんお米を生産して、バイオエネルギーに転換すれば、日本の農業問題もエネルギー問題も解決するだろう、てな安易な提案をしたことがあった。で、バイオエタノールについて改めて考えてみた。そもそもアルコールって、どうやって作るんだろう。

◆ アルコールを考える
 アルコールを調べると、酒の代名詞とあった。で、酒を考えてみた。お米は日本酒になる。葡萄はワインとなる。麦はビールとなり、トウモロコシはバーボンとなり、サボテンはテキーラとなる。みんな発酵の成果である。微生物の働きである。油もアルコールもマシーンからは生まれてこない。
 さて、ビールみたいにアルコール濃度の低い液体が燃料になるわけがない。日本酒だってワインだって同じである。焼酎やブランデー、ウィスキーのような強い酒を蒸留酒というが、この蒸留酒だって、そのままでは燃料にはならない。となると、どうなるのだ。強い酒をもっと蒸留して、さらにアルコール濃度を高めてやらなければならない。
 ここで重大な問題が発生した。つまり、蒸留には熱エネルギーが必要であることに気づいたのだ。この熱エネルギーはどこからくるのだろう。まさか石油ではないだろうね。

◆ エネルギーはどこからくるのか
 太古の太陽が燃えている。その下には緑のジャングル。植物たちは光合成によって太陽エネルギーを変換する。やがて、無限の時間が彼らの上を通り過ぎ、植物たちに蓄積されたエネルギーやアルカロイドや樹脂たちは石油へと熟成していく。
 人間が生まれて恋をする。熱き血潮が脈を打つ。筋肉が躍動して、体温が上昇する。この熱はどこからくるのだ。
 水田で、稲穂が頭を垂れている。葉緑素の働きでお米に太陽エネルギーが蓄積されている。牛が草を食べている。草のセルロースをいくつもの胃袋と微生物の働きで消化して、エネルギーに変えている。やがて、お米のエネルギーも獣肉のエネルギーも、人間に吸い取られる運命だ。つまり、人間から発生している熱源は、地球上のありとあらゆる葉緑素たちが太陽から作り出したエネルギーなのである。

◆ 鉄の虫
 鉄の虫が走り回る。大きいの小さいの。強い腕を持つ虫も、長い胴体を引きずる虫も、石油という太古の太陽エネルギーで動いている。
 いきなり、こいつらが穀物を食い出した。ばくばく、ばくばく食っている。そもそも、何億年も石油に密封されていた太陽エネルギーを食っていた連中だ。いったい、どれだけの穀物を食い荒らすつもりなのだ。

◆ 人間はエネルギーを生産しない
 オペックが石油を生産する。ボクはそれを嘘だと思う。掘り出しているだけじゃないか。
 だいたい人間はエネルギーなんか生産しない。どこからか引っ張ってくるだけだ。枯れ木を燃やし、炭を燃やし、石油を燃やし、ウランを燃やし、物質の形になっていた宇宙創生のエネルギーを解放しているだけなのだ。
 この解放されたエネルギーは次から次へと形を変えるが、その熱量は変わらない。これを熱力学第一法則という。そして、熱力学には第二法則というややこしい約束があるのだ。

◆ エントロピーの増大
 水の落ちる運動を電気エネルギーに変えてやる。これを水力発電という。その電力で冷蔵庫を働かせ、製氷をする。冷蔵庫の裏側からの放熱は、水を氷に変えていく。そして、グラスで溶ける氷の塊は、周囲の空気から熱を奪う。姿や形は変わっていくが、どれもエネルギーであることに変わりはないし、やりとりされるエネルギーの総量も変わらない。
 ところがだ、ここに重大な宿命がある。高い場所から低い場所へ移動した大量の水は、二度と元には戻らない。冷蔵庫から放熱された熱は、永遠に宇宙へ飛散していく。大気は氷を溶かしてやれるが、氷を作ることはできない。つまり、熱交換はいつも一方通行で元に戻ってはくれないのだ。これをエネルギーの不可逆性といい、形を変える度にエネルギーは機械的な利用価値を低下させる。これがいわゆるエントロピーの増大というやつだ。地球でも宇宙でも、変容したエネルギーはどこまでも無限の宇宙空間へ放散され、永遠に戻ってはこない。そして、散らばった熱たちは二度と仕事をしなくなるから、地球も宇宙も動くものがなくなってしまうのだ。これが天然自然のデッドエンド。

◆ 環境問題の根本
 エントロピーの増大から語れば、地球の運命も宇宙の運命もあまり明るくはない。でも、数百億年も未来の心配をしていても始まらない。問題は現在の地球である。
 エネルギーをやりくりして作り出すバイオエタノールにどれだけ地球環境を保全する能力があるのだろう。地球上の鉄の虫たちが、穀物を食べ始めたら、人間はもちろん、家畜だって食糧を失ってしまう。バイオエタノールをビジネスチャンスにして薄笑いをしているやつらがいる。石油が上がって、穀物が上がって、相場で儲けて、げたげた笑っているやつらがいる。彼らには泣いてる人間の苦しみが気にならない。

◆ 時代はカーボン
 カーボンフットプリント、カーボンオフセット。これは環境対策の皮をかぶった新しいビジネススタイルである。カーボンネガティブとカーボンポジティブが背比べをしたら、どうしたって地球温暖化になってしまう。どんなにカーボンニュートラルを叫んでみても、バイオエタノールには相場のからくりがある。わざわざ環境サミットなんかやらなくても、炭素の発生をコントロールしなければならないことは誰の目にも明らかである。だからといって、相場で儲けて薄笑いをしている連中の手先が集まって、経済や食糧の問題を棚上げにしたまま、環境問題をテーブルに乗せても、地球市民を黙らせることはできないだろう。
 経済が金本位から炭素本位に移行したのだから、エコロジーもエゴロジーにパラダイムシフトして、炭素ではなく、エゴのコントロールに徹底し、江戸時代に戻ればいい。あの頃だって、みんな楽しくやっていた。嘘だと思うなら、洞爺湖のホテルにでも集まって、江戸落語でも聴いてみな。   2008/07/06


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