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■ 翻訳「雪国」

◆ 日常生活の(文学的)冒険
 というようなタイトルでエム ナマエに以下のような文章が届いた。送り主はご存知、あの吟遊コラムニスト、立山誠浩氏である。彼については、この毎日が感動日記の『我等が世代の共通記憶・植木等体験』をご一読いただきたい。さすれば彼の非凡なる才能をご理解いただけると思う。
 さてさて、つまらぬ前置きはやめにして、本筋に入ります。では、はじまり、はじまりい。
『日常生活の(文学的)冒険』                07-03-08 立山誠浩

 お忙しいところ失礼します。気分転換に(って、俺のためですが)今日思いついた新しい遊びをご紹介しましょう。
YAHOOに翻訳サイトがあります。けっこう面白いので、日本の名作を翻訳させました。手始めに、川端康成の『雪国』を。

【冒頭】 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
【英訳】 When it passed through a long tunnel of a border, it was a snowy
district. A night bottom whitened. A train stopped at a signal box.

ふーむ、「信号所」が奇妙ですが、まあ、普通ですな。これだけでは面白くないので、この英文を再度日本語に翻訳させます。すると……

【英訳→再和訳】 それが境界の長いトンネルを通り抜けたとき、それは雪の多い地区でした。夜底は白くなりました。電車は、シグナルボックスで止まりました。

霊界にいるノーベル賞作家が、舌咬んで死ぬたくなるような日本語ですな。ここで止めたらもったいないので、この“名文”を今度は中国語に翻訳させて…。

【再和訳→中国語訳】 在那个穿?了境界的?的隧道的?候,那个是有?多雪的地区。夜底?得白色了。?气列?在信号箱停止了。

「境界」とか「隧道」とか「多雪的地区」とか、理解できる部分がわずかにあります。当然この中国語を再々和訳させます、と……。

【中国語訳→再々和訳】 あれに境界の長いトンネルを通過して、あれは多くの雪のある地区です。夜の底は白い了だけ変わる。電車は信号の箱に停止した。

 だんだん不思議な言語になってきました。そしてそして、間髪をいれずこれを韓国語に訳す!

【再々和訳→韓国語訳】(全部化けるかも知れません)
??? ??? ? ??? ????, ??? ?? ?? ?? ?????. ?? ??? ? ?? ???. ??? ??? ??? ????.

 こうなるともう、窯の蓋を開く陶芸家の心境です。どんな内容に“窯変”しているか皆目分からぬ韓国語訳を、もちろん日本語に戻します。そりゃあ!!

【韓国語訳→再々再和訳】 あれに境界の長いトンネルを通過と、あれは多くの目がある地球です。夜の底は白い終りだけ変わる。電車は信号の箱に停止した。

 どうでしょう? 新たな文学が創造できましたかな? ノーベル賞、もう一度もらえるかな?
 韓国語訳では、雪国の「雪」が「目」になっていますね。実は韓国語では、雪と目は発音が似ているのです。そのことを教えてくれた現代詩を一部分だけご紹介して、ほんの少し“文学的”に終わることにしましょう。

 韓国語で
 目のことをヌンと言い
 雪のことをヌーンと言う
 おそらく
 天上の目が雪なのだ

 こまかな億万の目が
 地上を見ようとして
 いそいそとまぶしげに降ってくる
 天と地の間が
 この世ならぬ興奮でいっぱいになる

吉野 弘『雪国叙情』 詩集『北入曽』(1976 青土社 刊)より



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