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カラスに馬鹿にされているお馬鹿さんたち

 ぼくの仕事部屋にはサンルームがある。そして、そこでの朝のひとときは格別だ。というのは、朝の新鮮な空気と鳥のさえずりを楽しめるからなのだ。ぼくのサンルームがどれだけ快適かというと、つい先程も雀が二羽、室内に飛びこんできたことでわかってもらえるだろう。  さて、ある朝に目覚めて驚いた。小鳥のさえずりでなく、カラスの軍団の大会議があったからだ。いつにない集会である。聞き覚えのあるカラスたちの声と声。チョンワガラスもきている。毎朝、ぼくにからかわれている新米カラスもいる。とにかく、豪徳寺や赤堤界隈のカラスたちが、ぼくの暮らすマンションと遊歩道周辺に群れて、カアでもない、コオでもないと情報交換と会議をやっていたのだ。11年間もここに暮らして、こんなカラスの大会議は初めてだった。

 そして翌朝、あのカラスの大会議の原因が判明した。その情報は朝のニュース。東京都がその朝からカラス駆除作戦を開始するというものだった。これを知ってぼくは大笑いをした。石原都知事さんよ、とっくにその秘密情報はカラスにばれていますよと。都知事も東京都もカラスを馬鹿にしてはいけない。めっきり馬鹿だらけになった都民より、もしかしたらカラスの方がずっと利口かもしれないのだ。というのも、長年都会周辺で生活しているカラスたちは人間というものを熟知しているからだ。

 特に最近、ゴミ出しマナーがひどい。このマンションでは、ぼくらの部屋のある階段出口付近がゴミの収集場所になっている。そのマナーの悪さは言語同断である。曜日も時間も守らないし、カラスよけネットの上に自分の出したゴミを放置しておく。利口なカラスたちはそれを発見次第に破り、中身をぶちまける。おかげで夏ともなると、階段はゴミの匂いでたまらない。コボちゃん、つまりぼくの家内はその無責任な住人の出したゴミの清掃をやっている。ゴミネットをきちんと広げてやれば、きちんとゴミが並ぶようになる。つまり、お膳立てをしてやらなければ、まともにゴミも出せないのが現在の世田谷住民ということになる。ここで誤解されないように書くが、賃貸マンション状況の変化により、このマンションにも若者が増えた。それも、おそらくは地方出身者の若者たちと想像できる。都会暮らしのマナーやルールを教えられていない弱輩者どもである。ゴミをまともに出せないのも理解できないわけでもない。だが、ルールは厳守すべきだ。また、管理義務を怠っている我が家の大家にも大いに問題はある。それにしても、こうしたお馬鹿さんがいる限り、カラスは繁栄し、子孫を増やし、いずれは人間社会よりも文化水準の高いカラス社会を構築していくことだろう。

 駆除すべきは、こうした馬鹿住民たちであり、カラスではない。カラスが増えることに、カラスの責任は問われない。都会の状況すべての責任は都民が背負うべき課題なのだ。

 頭の悪い住民ほど鳩や雀、野鳥の糞に腹を立てる。ノラネコの被害にメクジラを立てる。だが、お前らは糞をしないのか。花壇が荒されたくらいで立腹することはない。お前らがやっている環境破壊の方がよほど罪が深いし影響も大きいのだ。被害者たちを相手に被害者づらをしたり、善良なる市民の仮面をかぶるのはやめろ。

 ぼくの暮らしている隣に赤堤小学校がある。遊歩道を間に、その向かいに住宅供給公社の団地がある。そのベランダに鳩の死骸をさらしものにしている住民がいた。よほど鳩が嫌いなのだろうが、子供たちの見ている場所で、そのような行為はやめてもらいたい。子供たちに「命」を大切にと演説する前に、そうした命を軽視したり粗末にしたり、もしくは自由なる命を破壊する面々を戒めることが解決すべき問題なのだ。鳩や野鳥に糞をされたら、もう一度洗濯をすればいい。洗濯はやり直せるが、失われた命は二度と戻ることはない。もしも野鳥がそれほどに嫌いなら、野鳥のいない世界にでも引っ越しをすればいい。だが、ぼくは鳥のさえずりのない世界などには何の興味もない。世界があって自分が生かされる。世界が無事だから、自分も無事なのだ。「てめえ」ひとりで生きてるつもりの大馬鹿者は、早く死んで世界に貢献すべきなのだ。

 いつも生活を楽しんでいる愛らしいカラスたちよ。もっと自由に遊べ。食べろ。子孫を増やせ。カラスたちにつつかれたり襲われたりする馬鹿たちは、いずれどうにもならん馬鹿たちなのだ。犬にかまれたり、カラスにつつかれたりしたら、まず自分の振舞いを反省しろ。もっと謙虚になれ。人間が最初に生まれたのではない。野鳥たちは恐竜の子孫たちで、人間よりもずっとずっと先輩たちなのだ。そして、この地球の燐のバランスを、糞の運搬によって左右している貴重なる環境コントローラーの鳥たちを粗末にしていると、いずれ人類すべても生きていられなくなることを忘れてはならない。 2001/06/05
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