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流行をしゃべらされてるお馬鹿たち

「こちら、コーヒーになります」 
 ウェイトレスがコーヒーを運んでくる。コーヒーになります、というのだが、もうとっくにコーヒーになっているのではないか。紅茶がコーヒーに化けるのなら
「コーヒーになります」
  も理解できるのだが、コーヒーをわざわざコーヒーになります、と断る必要はないだろう。
「こちら、コーヒーになります」
 とウェイトレスにいわれたら、ボクは
「こちらも、コーヒーにはなりませんかね」
  と、水のグラスを渡してやろう。ウェイトレスにこの冗談が通じるかどうか、興味あるなあ。
 レジでの話である。
「こちら、千円からでよろしいですか」
 これは何語なのだ。こちら、とはボクのことか。それとも、このレシートのことか。それとも渡したお金のことか。この曖昧さは許せない。それでだ、千円でよろしいですか、とは何事か。会計が千五百三十円だったら、そりゃ千円では困るだろう。でも、よろしいですか、というのだから、よろしかったら有り難い。とにかく、この
「よろしいですか?」
  の意味がわからない。何がよろしくて何がよろしくないのか。よろしかったらどうで、よろしくなかったらどうなるのか。そこを聞いてみたい。
「こちら、千円からでよろしいですか?」
「よろしくない」
 こう応えたらどうなるのだ。面白いから今度、貴方もやってみませんか。結果の責任は負いませんが。
「わたしい、今朝、小田急線?乗ったじゃありませんか。そうしたらあ、隣のおじさん?新聞、読んでてえ、それがあ…」 
 喫茶店に盲人が独りで座っていたら、要注意。聞き耳を立てていますよう。周囲の話を地獄耳で聞いている。これがまた面白いのです。夢中でしゃべっている当人たちに、当人たちの大声は気にならないし、気がつかない。だから、どんな会話の内容も手に取るように聞こえてくる。それにしても、この言葉はどこの言葉なのだ。お前、どこの国の人間なのだ。  いちいち語尾を揚げるな。英語でもしゃべってるつもりなのか。お前、アメリカ人の彼氏でもいるのか。それを自慢したいのか。オジンもそうだ。オジンのくせに語尾揚げをやると、いかにも俺は若い女と交際してるぞ、と吹聴してるように聞こえるぞ。あ、聞こえるのは、ボクが若い女性と付き合いたいと思ってるせいかな。あはは。
 それにしても、いちいち相手に確認を取るような、もしくは確認を強要するようなしゃべりはやめろ。自分の発現に責任を取れ。
 「じゃありませんか」
とか
 「ではないですか」
とか、いちいち疑問符をつけられても、そんなこと俺の知ったことか、と怒鳴りたくなる。
 一般に、このしゃべりは中年女性に圧倒的に多い。このようなしゃべりをすると、利口そうに見えるとでも思っているのではあるまいか、アルマイト。アルミニウムのゲルマニウム。
 ボクの知る限り、田中康夫氏は別格扱いといたしますが、この手の語尾揚げ人種に利口そうなお人はいない。「自分」というものを保持している人種は絶対に語尾揚げはやらないようだ。
 分析すると、この言語抑揚は英語のそれと類似している。つまり、当人は英語を勉強しているか、もしくは始めたか、もしくは英語使用者の外国人の個人教師か彼氏のいることを吹聴したいのではないか。少なくとも、日本における最初の語尾揚げ言語の使用者はそうであったに違いない。ボクはそう思っている。それがカッコイイと思われ、流行したのである。
 最初の兆しはワイドショウか何かだったと思う。もうかなり以前の記憶だが、朝のラジオのトーク番組で、このしゃべりをやる男がいた。とても気になった。それが、気がつくと、多数の男女がやり始めたのだ。それも中年に目立つ。なんだ、こりゃ。ギャルたちの「チョーチョー言語」に対抗しているのではないかと思うほどである。
 語尾揚げは一般には、確認もしくは疑問の合図である。内容の確認。論点への疑問。もしくは使用される言葉の正当性への確認。外国語を話している者同志ではよく出現する会話方法だ。外国語を習っているときも同様である。その言語に不得意な側が得意な側に尋ねる、というしゃべりである。
 喫茶店で独りでいるとき、周囲が一斉に外国語を個人授業されている軍団ではないかと錯覚してしまう。あっちも語尾揚げ、こっちも語尾揚げ。真っ昼間の喫茶店を満たしているのは暇な専業主婦たち。おそらく彼等の亭主たちは、語尾揚げなんかする暇もなく、働いていることでしょうよ。
 どんな教養番組でも、語尾揚げのゲストが出演すると、もう聴く気がなくなってしまう。その人物が、どんなにいい発現をしようとも、つまらなく思えてしまう。伝えたい内容は勿論大切なのですが、その伝え方はもっと大切だとは思いませんか。
 しゃべりにはその個人の過去が現れます。その言葉が当人の心のどこからきているのか、よおく聞いていればわかります。本気で話しているのか、適当に相槌を発しているのか、嘘の自慢をしているのか。お化粧の得意なお人も、声の化粧が得意とは限らない。すぐに正体がバレますよ。それに、顔の化粧は半日はもちますけれど、音声の化粧はすぐに落ちる。ですから、言葉は日常的に磨いてください。美しい日本語は、何よりも貴方を美しく見せてくれます。
 以下、「日本列島馬鹿爛漫」は続く。 
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