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【その12】  2002年  某月某日

 お誕生日がきて、とうとうアタシも十二歳。人間の子だったら、小学校六年生なんだけど、犬のアタシは、もうオバアちゃんになっちゃうんだって。冗談じゃないワン。アタシはピンピンに元気なんだから。
 最近、アタシは毎日のように小田急線のふたつ先の駅、「梅ケ丘」まで、お散歩してるのよ。この頃、エムさんが忙しくって、机にばかりかじりついているから、コボちゃんがアタシをお散歩に連れてってくれる、というわけ。
 途中、いろんなワンちゃんに出会うわよ。この東京の世田谷の経堂や赤堤って場所は住宅街。だから、いろんなワンちゃんが人間の家族と暮らしているのよ。大きいのや小さいの。赤ちゃん犬から老犬まで。アタシは小型犬や赤ちゃん犬と遊ぶのが好き。でも、小さいからといって、乱暴なワンちゃんは苦手よ。そういうときは、アタシは知らんぷりをすることにしてるわ。
 お仕事? そりゃあ楽しいわよ。忙しいエムさんだって、机ばかりにかじりついているわけじゃなくて、講演会とか、展覧会とか、打ち合わせとか、外に出かけることも多いのよ。そのときがアタシの出番。元気にスタスタと歩いてるわ。若い頃、アタシは電車が苦手で、落ち着いていられなかったの。だって、ゴトンゴトンって揺れるでしょ。勿論、盲導犬として失格ってことはなかったけど、とにかくソワソワしちゃったのよ。だから、電車から降りるときなんか、慌てちゃって、よくエムさんから叱られたの。でも、この頃は、上手に降りられるようになったって、褒められるのよ。それはアタシが落ち着きのある年齢に達したってことでしょうね。年齢を重ねるってことは素敵なことなんだわ。
 エムさんは、きっと思ってるわ。人間の寿命と犬の寿命が違うのは悲しいってね。エムさんはアタシが、どんどんお利口になるって喜んでくれてるの。でも、その心の影で、とっても利口になったアタシとの別れがくることを、とてもとても恐れているのよ。でも、アタシは頑張る。現役の盲導犬として、いつまで働けるか。それも頑張る。そして何歳まで生きられるか。それも頑張る。アタシは十二歳のオバアちゃん犬だけど、暗い夜道も、遠い人影も、ちゃあんと見えてるし、遠い自動車のエンジン音だって、きちんと聞くことができるし、足腰だってしっかりしていて、マンションの階段なんか一気に駆けあがることができるし…。そうよ、大丈夫よ。アタシは現役の盲導犬として、きっと立派にやっていくわ。みんなも、よろしくね。そして、どこかでアタシに出会ったら、心の中で応援して。アリーナ、頑張れってね。



この絵本の売り上げの一部は全国の七つの盲導犬教会で盲導犬育成に使用されます。


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