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【その3】 某月某日


 アタシ困っているの。アタシに弟ができちゃったんだもの。あれ、息子かなあ。よくわかんない。でも、まだ生まれたばかりの男の子。それもねえ、トラネコの男の子なの。  キロンっていうのよ。コボちゃんとアタシが遊歩道で拾ってきたときにはキロンの両目はつぶれていて、まるで見えなかったのよ。それに痩せてヒョロヒョロで、歩くのもやっと。あのまま拾わなかったら、間違いなく死んでいたでしょうね。そんなわけでキロンは拾われて、エムさんもキロンを飼うことをOKしたのよ。

 キロンって変な名前でしょ。エムさんは最初、キタローという名前にしたかったんですって。だってキロンはトラネコ模様のチャンチャンコを着ているみたいだし、それに片目は助かって、それでまるで漫画のゲゲゲの鬼太郎みたいだったから、キタローにしたかったらしいの。でも、コボちゃんもアタシも大反対。で、キロン。キロンって太陽系の火星と木星の間に小惑星帯という場所があって、そこの小惑星のひとつにキロンという星があるんですって。キロンって星は健康に関係のある星らしいのね。キロンが健康でいられますようにって、エムさんの祈りもあって、そういう名前になったってわけ。

 で、アタシの悩みはトラネコのキロンがアタシにとって弟になるのか、それとも息子になるかってことなのよ。キロンはアタシに甘えていて、まるでアタシをお母さんか何だと思ってるらしいのね。アタシが寝ていると、胸の中に潜りこんで、甘えているうちにスヤスヤと眠っちゃうの。可愛いいんだけど、アタシは身動きができなくて疲れちゃうのね。だって、キロンはとても小さいの。体重は400グラム。アタシの30分の1。こんな小さいキロンを抱いていたら、アタシが不注意に動いたりするとペッチャンコになっちゃうでしょ。それにまだ丈夫でなくて、歩くときなんかアカベコみたいに首をグラグラと動かしているのよ。まだ体力がないのね。早くキロンに大きく丈夫になってもらいたいわ。

 キロンは何でもアタシと一緒にしたいらしいの。御飯も水も一緒の食器に首をつっこむのよ。でも、アタシの御飯はアタシの御飯。お水くらいは許してあげるけど。だって、キロンの御飯とアタシの御飯は違うもの。キャットフードとドッグフードって違うわよね。

 ま、キロンがアタシの弟なのか息子なのかの問題は別としても、いずれにせよアタシはキロンというトラネコと暮らすことになった、というお話でした。


この絵本の売り上げの一部は全国の七つの盲導犬教会で盲導犬育成に使用されます。


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