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◆ はる欄満に送る童話 風の話 

 大気は生きています。死んだ星にはこんな空気はありません。だって、この空気は地球全ての「いのち」が力を合わせて作ったものですから。この大気に魂をふきこんだのが空気象、エアファント。嵐の季節、エアファントは大群で行進していきます。鮮やかな季節、この不思議な生物が静かに通り過ぎていきます。どうして誰もエアファントの存在を知らないのでしょう。でも爽やかな五月のある日、心を澄ませていたら、こんな会話が聞こえてきました。これは地球をずっと旅してきた大気のお母さんゾウと、まだ何も知らない赤ちゃんゾウとのおしゃべりです。
「あれれ、あそこにいるのはなあに?」
「ああ、あれは人間て生き物で、お役人という種族よ。とてもいばってるの。ちょっとイタズラしてみましょうか」
 お母さんは長い鼻をのばして息をふきかけました。すると帽子を飛ばされたその人は、あわててツルツル頭を押さえました。
「あそこにいる小さいのは?」
「おまえとおんなじ赤ちゃんね。まだ生まれたばかりの人間よ」
 赤ちゃんゾウはうれしくなって、お母さんの真似をしました。するとうば車の風車がクルクルッと回転して、赤ちゃんもコロコロッと笑いました。
「ああ、人間って愉快だね。どうしてあんなにビックリしたり、喜んだりするんだろう」
「それは人間に私達が見えないからさ」
「なあんだ、つまんないの」
「でも、私達のことを知ってる人もいるよ」
 そう言ってお母さんは野原いっぱいに息をふきかけました。するとお花畑に五色の波が立ち、麦畑に緑のだんだら模様ができるのを見て、ウットリしている人間がいました。
「あの人は知ってるんだよ。きれいな空気も、美しい四つの季節も、お花の種も、それを育てるやさしい雨雲も、みんな私達が運んでいることを。みんな私達の仕事だってことを。あの人の名前は詩人というのだよ」

◆ 「雨の日」 エム ナマエ
 これは小さな大きな物語。湿った土の香りに抱かれて、アジサイがひとつポツンと咲いていました。濡れた葉っぱの裏ではテントウムシの雨宿り。生まれたばかりの水溜りが銀色の空を映しています。雲のしずくがひとつポタン。ひっくり返った空もプルン。するとどこからか小さな小さな声がしました。
「二階の坊や、雨漏りはしないかい?」
「大丈夫だよ、お母さん。こんなにやさしい雨だもの。こんなにぬくい雨だもの」
「ううんと背伸びをして、たっぷり外の空気を吸っておくんだよ。お日様がお顔を出したら、あたしも坊やもまた家の中だから」
「ここは天国だねえ、お母さん」
「そうだねえ。あの丸い四つ足化け物イダテンも、ここにはやってこないから」
「あいつらと競走してお父さんは負けたんだ。ボク、ううんと大きくなって、お父さんよりもずっとずっと大きくなって、あいつらをみんな負かしてやるんだ」
「そうなるといいねえ」
「なるよ。きっとなる!」
「そしたら旅に出ようかねえ。あの長い鉄の一本道を。どこまでいつまで歩いたら、伝説の夕陽の国にいけるのかしら?」
「でも、鉄の道にはムカデ怪物がいるんだよ」
「あら。坊やはもっと大きくなるんでしょう?」
「うん、そうさ。そしたらお父さんも褒めてくれるかなあ?」
「きっとよろこんでくださるよ」
「早く大きくなりたいなあ」
「それじゃあゆっくりお眠りなさい。ほら、あんなに見事な虹も出たし」
 大都会。豆粒みたいな自動車や電車。高層マンションのベランダに夢見る親子が暮らしていました。我が子を背負ったカタツムリ。小さな植木鉢にも梅雨の晴れ間が恵みの光を贈ります。虹の空をつんざいて、待ちくたびれた小鳥達の歌声が通り過ぎていきました。

◆ 嘘つき科学者 エム ナマエ
 ギザギザの海岸線を離れて川をさかのぼっていくと、岩肌の丘に囲まれた深い湖があります。待ちくたびれた夏の太陽が天地をオレンジに染めて落ちていきました。黄昏から夕闇へと変わる風景の中、崩れたお城の上に一番星がキラリ。と、くぐもった水音と一緒に波紋が広がり、岸辺を何度も洗いました。
 水の底から星明かりを映した湖面に向かって小さな泡がプクプク。大きな泡もブクブク。水藻がユラリ。小さな影と大きな影もユラリ。
 誰もいない岸辺に、白いヒゲの老科学者がひとり立っていました。プクリ、プクプク。ピチリ、ピチピチ。静かな夜にはじける泡の音。老科学者は耳を澄ませました。ブクリ、ブクブク。パチン、パチパチ。心も澄ませると、はじける泡がおしゃべりを始めます。
「ねえ、お母さん。お星様、きれいだったよ」
 これは小さな泡のおしゃべりです。
「よかったねえ。あれは一番星なんだよ」
 これは大きな泡のおしゃべりです。
「うれしいなあ、ボク。水の上が見られて」
「そんなにうれしいかい。お空を見られて。これもあんなに沢山いた人間が、みんないなくなってしまったおかげよ」
「ボク、生まれてからこれまで、一度もお外に顔を出せなかったもんなあ」
「それはそうよ。だって、いつもいつも大勢の見物人やカメラマンや科学者達がいたからねえ。それにあの売店。おみやげ売るのはいいけれど、壊れたスピーカーからの雑音だけはやかましかった」
「うん。ずいぶん静かになっちゃった」
「もう、おまえも井戸の底のカエルみたいじゃなくなるね。これからが勉強よ。世界はもっともっと広いんだから」
 ふたつの泡がしゃべるのを聞いた老科学者は、肩をすくめ満足そうに微笑すると去っていきました。この老人はついこの間、自分の撮影した「湖の怪物写真」がおもちゃの潜水艦だったと、世間に嘘をついたばかりでした。

◆ 星に見守られて エム ナマエ
「ボ、ボオオオッ。ボオオオオッ」
 満天の星空を浮かべた海上で、セメントを満載した貨物船がいきなり汽笛を鳴らしました。
「レーダーに反応はないぞ。どうしたんだ?」
 年輩の船長が青年操舵士に尋ねました。
「クジラですよ。僕はクジラの歌を聴いてたんです。それで思わず汽笛を鳴らして合唱してしまったんです」
「ほおっ。クジラの歌ねえ…」
「あのクジラ達はずうっとこの船と並んで泳いできたんです。人間が好きなんでしょうか」
「航海を続けていると不思議な出来事に遭遇する。若い頃、私はイルカに助けられたよ。浅瀬に迷いこんだら、イルカが先導してくれたんだ。おかげで座礁せずに脱出できた」
「イルカに人間の心が分かるんでしょうか」
「こんなこともあった。私の船が嵐で難破して、救命ボートで暗黒の海を漂流していたとき、闇を照らす淡い光に出会ったんだ。これが発光イカの群れでね、無数の目が私達を見守っていた。大きな目と美しい光が不安な気持ちをずいぶん慰めてくれたよ」
「イカも人間が好きなんでしょうか?」
「分からない。ただ、人類が他の生き物全てに助けられているのは事実だ。私達が運搬中のセメントだって、古代海洋生命が現代人類にプレゼントしてくれた彼等の遺産なんだ」
「セメント鉱山は太古の珊瑚礁でしたよね」
「大海原の航海は淋しいものだ。人生もまた孤独な旅だ。そして人類の挑戦の旅もまたそうだろう。もしもこれが星だけが永遠に広がる無限の宇宙航海だったら、一体どんな存在が私達の孤独を癒してくれるのだろう」
「昔から星は船乗りの旅先案内人でした。もしかすると、僕達以外全ての存在が僕達を見守ってくれているのかもしれませんね」
 灯かりを消した操舵室。船長はパイロットランプと星明かりに浮かび上がった梶を握る息子の横顔をじっと見守るのでした。




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