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◆ プラモデル (1991年 湾岸戦争当時の作品)

 マモルは芝生の中庭ごしにイサムの窓を見た。イサムは机に向かって夢中で何かをしている。それがプラモデル製作であることをマモルはよく知っていた。
「こっちだって負けないぞ」
 マモルは筆を持ち直した。息をすると、鼻の奥で塗料の匂いがぴりぴりした。やはり、仕上がりのコツはカラーリングにある。マモルはホーカーシドレー・ハリアー戦闘機のコクピット内部を丁寧に塗り上げた。素晴らしい出来だ。今すぐに自分が乗って大空を飛んでみたくなる。マモルはわくわくした。もうすぐ、日曜日。今度こそイサムをぎゃふんと言わせてやる。プラモデルの数では負けるが、質はこちらの方がずっと高い。
「あいつのは数まかせのオンボロ軍隊だ。それに比べたら僕のは精鋭ぞろい。本当に動かしても、きっと性能がちがうに決まってる」
 日曜日。芝生の上に小さな軍隊が向かい合った。ゼロ戦。F56ヘルキャット。F15イーグル。A10地上攻撃機。隼。雷電。震電。B1戦略爆撃機。ステルス。P51ムスタング。ビゲン。スピットファイアー。メッサーシュミット。タイガー戦車。パットン戦車。コブラ地上攻撃ヘリコプター。
「どうだ!またふえたろ」
 イサムの言葉にマモルも言い返す。
「この垂直離着陸戦闘機、よく出来てるだろ」
 ふたりは睨み合った。
 ある日、マモルは大変なことに気がついた。いくつかのプラモデルが壊れているのだ。なくなっているのもある。
「一体、どうしたんだろう?」
 その晩、マモルは異様な物音に目を覚ました。見ると、窓が開いていて、棚のプラモデルが消えている。そして、マモルは不思議な光景を目にしたのだ。真夜中の中庭で火花を散らして、マモルとイサムのプラモデルの軍隊が戦っている。マモルは目をこすった。夢ではない。本当に小さな戦争が勃発したのだ。急降下爆撃する攻撃機。迎え撃つ自走対空機関砲。ドッグファイトの戦闘機。オレンジの尾を引く曳光弾。火をふく爆撃機。飛びかうミサイル。移動しては発砲する戦車。そのどれにもマモルとイサムの分身が乗っている様な気がした。手に汗をにぎって見守るマモルの前で、明らかに味方の精鋭部隊は敵の軍隊を打ち負かしていた。思った通りだ。マモルのプラモデルはやはり優秀だった。マモルは勝利を確信した。
 だが、次の日曜日、マモルの軍隊は全滅した。中庭でイサムがマモルのプラモデルをめちゃくちゃに踏みつぶしたのだ。
「何をするんだ!?汚いぞ!」
「黙れ!戦争にルールなんてあるもんか」
 イサムは醜い顔つきでニタリと笑った。




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