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◆ はい、こちら地球防衛軍        

エム隊長の背中をイデ隊員がつつきました。
 「隊長、電話。いい加減に出たらどうですか」
 「俺は今、腹がへってるんだ。機嫌が悪いんだ」
 エム隊長は貧乏ゆすりをしながら、指先で机をトントンたたいています。
 「うるさいから、早く出てくださいよ」
 「おまえが出ろ。さっき、弁当を食ってたじゃないか。ちゃんと知ってるぞ」
 「僕はいやですよ。どうせ、責任者を出せって、いわれるんですから」
 「あああ。隊長なんかになるんじゃなかった」
 「月給だけは、二人分もらってるくせに」
 「わかったよ。給料分だけは働くさ」
 エム隊長はしぶしぶ受話器を取りました。
 「はい。こちら、地球防衛軍。え、ブタの怪物。そういう相談なら一一〇番ですな。こっちの管轄じゃありませんから。なんすか。怪物退治。そりゃ、無理っすよ。こちら、自衛隊じゃないんすから。ええ。そんな、あなた…。地球防衛軍にゃ、ミサイルや爆弾なんかありゃしませんよ。国会がそんな予算、認めるわけないじゃないっすか。また、税金の無駄使いってマスコミにたたかれるに決まってるんすから。うちらにあるのはサイレンつきのミニバイクぐらいなもんで。ええっ。そのブタの化け物が暴れてるって。大砲?そんな、あなた。こんな町の中じゃ、完全武装の自衛隊だってどうにもなりゃしませんよ。まさか爆弾やミサイルをバカスカ使うわけにもいかんでしょ。なにしろ、人口過密都市ですからねえ。ブタの怪物なんかより、火事のがよっぽど脅威ですよ。消防署だって暇じゃないんすから。だから、そりゃ、うちの管轄じゃないんす。私?ここの隊長です、はい。ええ。そうですねえ…。区役所の清掃課か、教育委員会の非行相談課にでも連絡したらどうっすか。ええ。そうです。すいません。もう、電話、切りますよ。こちら、昼休みっから」
 「隊長。やっと出前がきましたよ」
 「ああ、腹へった。なんだ、こりゃチャーシューメンじゃないか。俺が注文したのは野菜タンメンなんだぞ。どうしてくれるんだ。俺はくだらんパーティー続きで、肉は食い飽きてんだ。バイキングで、一番人気ないのは肉料理なんだぞ。右から左へ生ゴミさ。ああ、見るのもムカムカする。あっさりしたもん、食いたい。ヤキブタなんか、犬にでも食わせろ!」
 「あれ、隊長、いつからベジタリアンになったんですか?」
 「おまえはいいよ。新婚だもんな。愛妻弁当にゃ、野菜たっぷりだもんな。こちとら古女房。五百円もらって、出前でも取りなさいって…。あああ、外食は、やたら肉ばかり。こんなに肉ばかり食って、俺だってブタになりそうだ」
 「あれれ、チャーシュー、残すんですか?」
 「食いたくないもん」
 「勿体ない。バチが当たりますよ。世界の三分の二は飢えてるんですから」
 「俺はブタの化け物よりコワい糖尿病なんだ」
 そこへ地球防衛軍紅一点、美人のフジコ隊員が昼食から帰ってきました。
 「隊長、お腹、すいてたんでしょ。はい、ニクマン。ふかしたてのホヤホヤよ」
 「ゲッ」
 「あら、食べないんですか。あたし…。あたしはダイエット中ですもん」
 「どうするんだ、ブタマン。僕は食わないよ」 「じゃ、冷蔵庫いきね」
 イデ隊員は、それを聞いて絶叫しました。
 「やめてくれ。誰が冷蔵庫を掃除するんだ。冷凍庫にゃ、三年前の肉だって入ってる。下の段にゃ、カビだらけになったカツサンドだってある。ドロドロに溶けかけたハムだって見たことある。おお、僕は冷蔵庫がコワい」
 「あら、電話」
 「…」
 「…」
 「ふたりとも出ないの?」
 「おまえ、出ろ。愛想よくしてやれ」
 フジコ隊員はニッカリ、デパートの店員なみの「作り笑い」を浮かべて受話器を取りました。
 「はい、こちら地球防衛軍。ええっ。ブタの集団暴走ですって。ちょ、ちょっと待ってください」
 フジコ隊員は送話器を手でふさぐと、エム隊長に指示を仰ぎました。
 「食肉業者に始末させろ」
 「ブタって、ただのブタじゃないの。体長五メートルの巨大ブタなの。とても、あの人達の手におえそうもないわ」
 「じゃ、警察だ」
 「パトカーもぺっしゃんこですって」
 「じゃ、やっぱり自衛隊だな」
 「あのう…。さしでがましいようですけど、政府へホットラインで報告したらどうかしら」
 「そうしろ。こら、イデ隊員。ゲラゲラ笑ってないで、おまえが電話しろ!」
 「はいはい、了解、了解」
 イデ隊員はショッキングピンクにペイントされた、のっぺらぼうの電話機を机の引出しから取り出しました。
 「もしもし、こちら地球防衛軍…。隊長、こりゃ、駄目ですわ。」
 エム隊長は赤い受話器をひったくりました。 “お客様のご都合で、この局番は現在ご使用になれません” 「あ、また電話だ」
 「こっちのも鳴ってるわ。あら、まあ、きゃー。窓の外を見て。東京タワーをブタの怪獣が壊してる」
 「ありゃ、体長八十メートル、体重五万トンってとこかな。ほとんどゴジラ。隊長。やっぱり、地球防衛軍の出番らしいですよ」
 「俺は知らん。やだ」
 「ひいいっ。れ、れ、冷蔵庫の扉が…」
 グラグラゆれて、バタンと開いた冷蔵庫の扉から無数の豆ブタが飛び出して…。


     1994年「詩とメルヘン」連載5回分



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