エムナマエのロゴ
エムナマエワールドプライベート盲導犬アリーナ日記毎日が感動
ギャラリー新着情報サイトマップホーム英語

 


◆ 神様になった慈善家

 貿易商エム氏は有能な実業家であるとともに有名な慈善家でもありました。世界中を旅して、いかに貧しい人達が大勢いるかを思い知らされていたからです。
「もっともっと頑張って稼がなくては。そのお金で、みんなに幸せになってもらうんだ」
 出勤前の食堂。エム氏は朝食のテーブルでいつものように考えこんでおりました。
「また考え事ですか。いい加減にしてください。いつまで私達家族をほったらかしにしておくんですか」
 巨大な円卓の正面から奥さんの声。
「うるさい。私は忙しいんだ。おまえに仕事のことが分かってたまるもんか!」
 エム氏が怒鳴ると、円卓をぐるりと囲んでいる一ダースもの子供達がいっせいに大声で泣き出しました。たまらず、エム氏は外へ飛び出します。それでも頭の中は悩み事でいっぱいでした。
「どうしたら、みんな幸せになれるのだろう。ああ、ここに神様がいたらなあ…」
「わしに何か用かね?」
 声がして振り返るエム氏。なんとそこには本物の神様が立っているではありませんか。
「おお、神様。みんなの幸せのために、これから私はどうしたらいいのでしょう」
 すると神様はニッカリ笑ってこう言いました。
「それならひとつ、君が神様になればいい」
 神様はエム氏の頭に軽く手を置きました。
「ほうら、もうこれで君は神様になった」
 そして本物の神様はスーッと消えてしまったのです。エム氏は自分に与えられた力を試してみたくなりました。
「どこかに貧しい村はないだろうか」
 気がつくとエム氏は粗末な小屋に囲まれた広場に立っておりました。太陽はジリジリと照りつけ、地面はカラカラに乾いています。目の前には今にも死にそうな病人がいました。エム氏は一瞬にしてその男を癒してやりました。
「ありがとうございます。私は働くのが嫌で、酒ばかり飲んでこんな体になってしまったのです。もうこれからは一生懸命に働きますから」
 それからエム氏は村で一番貧しい男に金を与えました。家もなく、ボロをまとっただけの男は飛び上がって感激しました。
「ありがとうございます。これでやっと人並の暮らしができます」
 広場の中央ではカラカラに乾いた井戸を囲んで村人が騒いでいます。エム氏は井戸の底から冷たくておいしい水を出してやりました。
「ありがとうございます。あなたこそ本当の神様です。どうか、これからもずっとこの村にいてください」
「よしよし。みんなが充分に幸せになるまで、ここにいることにしよう」
「そ、そりゃ、ありがたい。そ、そんなら今度は、どれだけ酒を飲んでも病気にならない体にしちゃくれませんか」
 酒の匂いに振り向くと、治してやったばかりの男が、もうぐでんぐでんに酔っ払って真っ赤な顔をくっつけてきます。
「それじゃあ、神様。どうせお金をもらうなら、村一番の金持ちになりたいです」
 さっき金をやった男が、血走った目でエム氏を見上げています。
「冷たい水だけじゃなく、おいしいワインやビールも井戸から出してください。クーラーつきの家も出してください。だって神様はどんなことでもできるのでしょう」
 エム氏はぞっとしました。
「いったい、どれだけすれば、この人達は自分を幸せだと思えるのだろう。人間の欲望というものは限りのないものだ。いくらお金や物を渡しても誰も満足はしないだろう。どうしたら、この人達に幸せだと感じてもらえるのだろうか」
 気がつくと、エム氏は自分の家の前に立っておりました。見れば見るほど贅沢で豪華な建物。さっきいた村の家々とは比較になりません。エム氏は考えこんでしまいました。すると誰かが肩をたたきます。それは本物の神様でした。
「さあ、どうかね。幸せに必要なのは本当は何だろう?」
 エム氏はしばらくしてから答えました。
「それは幸せだと感じる心です。どうぞ神様、みんなの心を変えてやってください」
「そればかりはわしにも無理じゃよ。では、さらば」
 神様が消えてしまってからもエム氏はずっと考えこんでいました。そして突然、ぱっとその顔が輝いたのです。
「そうだ。みんなが変わるためには、まず自分が変わらなければ。みんなが幸せになるためには、まず自分の家庭が幸せでなければ」
 それからエム氏は家族の待っている我が家の玄関にかけこんだのです。



  ライブラリー バックナンバー

クリスタル天文台  海岸の考古学者 春爛漫に送る童話 おはよう ふたりの仕事 パパは世界一の腹話術師
プラモデル1991  バードマンの谷  神様になった慈善家 連休のオフィス モーツァルトを奏でるクジラ達 
はいこちら地球防衛軍 戦車 ワリさんリムさん ぼやき漫才

 

  Copyright © emunamae